パーカッショニスト安江佐和子プロデュース il Sole / Y × S Crossing #5 〜杉山洋一 影響を受けた作曲家とともに〜
2025年04月19日15:00開演
2025年04月20日14:00開演
https://tocon-lab.com/event/20250419
https://tocon-lab.com/event/20250420
(承前)この作品の委嘱初演者で(今回の公演のゲストでも)ある吉原すみれさんは、マルチ・パーカッショニストで博物館並みの多種多彩な楽器を所蔵している。最後におまけとして、そこから特に惹きつけられた今回の使用楽器を紹介したい。
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まずは『ブンカカ』と吉原さんが呼んでいた楽器。楽しげな名前だが正式名称ではなく、吉原さんが独自に名付けたものだ。
譜面にもbuncacaと記されていた。そして安江さんが初めて譜面を見た時に、当然の質問を受ける。「buncacaって何ですか?」
答えは『バリンビン』。楽器の出自はフィリピン。今回の演奏会では吉原さん所蔵のものを使用するが、上記の写真は2005年再演の奏者、大橋エリさんが自ら制作して下さったもの。その折に頂戴し、今も個人的にいろいろな場面で大事に使わせてもらっている。
いやはや打楽器奏者は楽器制作、大工仕事もできるのかと。しかし考えてみれば、仮に世界が崩壊した後でも、あらゆるモノを楽器にして音楽できてしまう打楽器家は、全く道具なしに音楽できる声楽家とともに音楽の潜在的生命力は最強、なのではないかと思ったりもする。
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こちらは安江さん所蔵のお宝、高橋悠治さんから頂いたものだという。正直、羨ましい。写真では比較が難しいが、このバリンビンは筒のように太めで、最初に見た時にはバリンビンとはわからなかった。
音も聴かせてもらったが、これが最高。深い。今回は使用しないのでご紹介までだが、見た目も美しく、たまらない。
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一方こちらは吉原さんが『ワニワニ』と愛称していた楽器。
これもニックネームなので正式名称ではない。譜面にもwaniwaniと記していた。これまた安江さんが初めて譜面を見た時に、当然の質問を受ける。「waniwaniって何ですか?」
答えは・・・しかし、こちらは答えが困難だった。というのも、その形状は覚えているが正しい「名前」がわからないのだ。ならばこの特殊な形状をどう描写するか、この「伝えられない」もどかしさ。
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以前だれかに『ソード・シンバル』と教えてもらった記憶があった。ーーああ、たしかに。
しかし画像検索してもヒットしない。おかしい。これでいいのか?
その後、安江さんは吉原さんから楽器をお借りできることになったので、実際の演奏についての問題は解消したが、安江さんによるとこちらは『サーベル・タンバリン』とのこと。そうか、タンバリン族だったか。シンバルでなくジングルだ。たしかにたしかに。
などと興奮していたのだが、しかしこちらも画像検索しても、ほぼ出てこない。
このモヤモヤからネット三昧になり、いろいろ調べてわかった正式名は『チムタ』(chimta)。この楽器はインド、パキスタン周辺の出自だった。そう思うとアラビアンナイトに出てきそうな雰囲気。物語が一編つくれそうである。実際に今回の再演の時には、これまで以上にイメージの広がりを持てそうだ。
そして検索かけて多数の画像が出てきた時には・・・ぐっと来るものがありましたよ。はい。
しかし楽器の歴史的背景のイメージなしには『チムタ』という発音と、実際の形状のイメージは(おそらく異邦人のわれわれでは)全く一致しない。その断絶を埋めるのが想像力で、連想できる呼び名が生まれたのだろう。ここで『ブンカカ』『ワニワニ』と名付ける吉原さんの、楽器に対する「態度」のようなものに共感する。説明でなくイメージとしての名付け。センスといってもいいのかもしれないが、そういうセンスは、その人の演奏にも実は、さりげなく反映されているように感じる。
ちなみにこの楽器のライブ動画も見つけてしまった。作曲時2004年はインターネットで動画を見るのは(自分の環境では)かなり制限があったが、今2025年になってようやく。
だが・・・その演奏方法は私の曲の使い方とまったく違っていた。
Chimta lesson with Arif Lohar
https://www.youtube.com/watch?v=q2Co3QgSEqk
いや、楽しそうでいいなあ。このArif Loharさんの破壊的笑顔もまた、いい。しかし私の曲は残念ながらこういう曲ではないし、このようには演奏されない。
こうして作曲後21年を経て、通常と違う方法で演奏していたことが初めてわかった。些かショックではある。しかし「『名前』を探す」「(演奏方法の)歴史と誤読」という今回の再演の経緯それ自体が、結果的に曲の世界観の追体験であったことになる。
この曲の中では、ディオラマの打楽器セットの中に含まれていたチムタは、助演者のチムタへと増殖してゆく。音のイメージも伝統的な音と(結果的に)変わる(と思う)。
その様子は会場で。
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パーカッショニスト安江佐和子プロデュース il Sole / Y × S Crossing #5 〜杉山洋一 影響を受けた作曲家とともに〜
2025年04月19日15:00開演
2025年04月20日14:00開演
出演:パーカッション:安江佐和子/吉原すみれ
プログラム
・湯浅譲二 「相即相入Ⅱ」(Duo)
・伊左治直「diorama ー それでも私は、この震える海を渡ろう」(安江佐和子Solo, 助演:伊左治直、杉山洋一)
・石井眞木「フォーティーンパーカッションズ」(Duo)
・八村義夫「ドルチシマ・ミア・ヴィタ」(吉原すみれSolo)
・杉山洋一「委嘱新作」Duoパーカッションのための
料金
一般:4500円(当日券:500円増し)
学生:3000円
チケット予約・お問い合わせ
チケットご予約:https://202504ilsole.peatix.com/
メール予約:prana.sawako@gmail.com
(お名前・公演日・枚数・電話番号をご明記ください)
電話予約・お問い合わせ:株式会社東京コンサーツ 03-3200-9755(平日10:00~18:00)