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第42回 あごうさとし『ペンテジレーア』上演 菩提寺伸人

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photo by m bodaiji


松平頼暁声楽作品集(コジマ録音) 細川俊夫作品 音宇宙Ⅹメモリー(フォンテック)

半透明の赤黒い幕(膜)に舞台は終始覆われていた。
幕には「接吻」、「噛」等、針金のような線状の文字が刺繍されていた。
あごうさんの「薔薇祭を」の言葉から
周期的なノイズ音が現れ、打楽器奏者、葛西友子さんの演奏する唸り木(唸り笛?)から事は始まった。
時にリンの音が空間と時間を同時に区切った。
後半になって、アキレス(辻本桂さん)が赤縄で縛られ卍のようなかたちで舞台の上高く宙吊りにされた頃から表現が激しさを増していった。
ペンテジレーア(ベルリン生まれのマリー・ハーネさん)が錯乱したかの様にドイツ語で叫びちらした。それに対して、侍女役兼歌手の太田真紀さんがドイツ語で、素早いシュプレッヒシュティンメを交え、切れ味鋭く歌い、語っていくシーンで、クールな緊張感が強度と速度を伴って交錯した。
それが静まると、今度は高く宙吊りにされ、ゆっくりと揺らいでいた赤縄の卍アキレスが、地に坐している太田宏さん、村岡優妃さんらの声明(オラショ?)の太い唸りに合わせて静謐に地上に降りて来るシーンが展開。私はドローンミュージックと言われているラ・モンテ・ヤングのSHANDARから出ていたLP(1974年)を想起した。
その後、いきなりマリーさんがジーンズを履いて、赤い口紅を付けていくシーンとなり、今度は昔どこかで見たジェーン・バーキンのAPOCALYPSTICKの映像を想起させられた。
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photo by m bodaiji


La Monte Young/Marian Zazeela-The Theatre Of Eternal Music(Shander83510)



なんだこれは。演劇だけが主体じゃない。主体は。
12音技法以前に、シェーンベルクが世紀末的な混沌を表現しようとしたともいわれている「月に憑かれたピエロ」。原作はベルギーの詩人ジローがフランス語で書いたものであるが、後にハルトレーベンがドイツ語に訳し内容が深く暗くなったとされている。女優A.ツェーメがシェーンベルクにそれの作曲を委嘱、初演はベルリンで、本人が朗読的に歌い(シュプレッヒシュティンメ)、5人の器楽者はついたての後ろで演奏した。聴衆の評価は、新しい試みにつきものの賛否両論。クライストのペンテジレーアがようやく初演されたのもベルリンであった。私自身はブーレーズが1977年にCBSで録音したレコードを聴いた後に、シェーンベルクが指揮し1940年にLAで収録した自作自演の音源に出会い、聴いたということもあったためか、そのおどろおどろしさ、裏のドイツロマン派文学に通底する奇妙さ、猥雑さに驚きを感じた。
仲正先生から次のあごうさんの作品でペンテジレーアをこのメンバーで行うとお話を伺った時、このシェーンベルク自作自演の音がふと頭に浮かび、混淆が起こりそうな気がすると話したが、その予想は当たり、日本でこの作品が上演されたことでさらに混沌とし、今回、予想をこえた混淆が生み出されたのではないかと思う。
あらゆる手法を巧みに使われる伊左治直さんが作曲された音は、劇中音楽には収まりきらず、呪術的となり、音楽を伴う儀式、祭となった。   
初めのあごうさとしさんの掛け声の通り、演劇だけには収まらなかった様だ。
暗い時期に闇をみると光も見えて来る様な気がするのは私だけだろうか。
鶴岡真弓先生がダブリンとジェームス・ジョイスのことを語られた時に「光があるのは、光を感じるのは、そもそも闇があるから」と話されていたのを思い出した。
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photo by m bodaiji

伊左治直作品集「熱風サウダージ劇場」(フォンテック)



症状の事例

  1. うつ病
  2. SAD 社会不安障害・社交不安障害
  3. IBS 過敏性腸症候群
  4. パニック障害